タイムリープもの

 

おまけ*おとなの圭勇

「よう。お目覚めかよ王子様。」
目覚めるとオレはなんと勇人の腕枕で眠っていた。高校生じゃない。オレの、オレだけの勇人だ。
「ゆうっ……ぶっ!」
感極まって押し倒そうとしたオレの顔面に空いていた方の手のひらを押し付けて、勇人はオレを腕枕から押し出してしまった。
「なんなんだ!顔への攻撃はやめてくれって言ってるだろ!」
「正当防衛だろ」
痺れが残っているのか、勇人は腕をぐるぐる回しながら身体を起こした。着衣に乱れはない。
「………こっちでは何も無かったのか?」
「………お前覚えてねぇのかよ」
へ?と勇人の顔を見返すと、勇人はジトリこちらを睨んでいた。ちょっとかわいい。
「何を?」
「俺は覚えてるぜ」
今すぐその面殴ってやりてぇ、と続けられたセリフにサーッと顔が青くなる。
「えっえと、……………いまオレが、18歳の勇人にしてきたこと…………覚えてるのか」
「お前は覚えてねぇみてぇだけどな」
「ち、ちがう、そうじゃない……!だ、だって勇人が……!」
「俺が?」
冷めた目が突き刺さる。オレの心は怒られた飼い犬のようにすぐにしぼんで大人しくなってしまった。
「勇人が………だって、オレが、17歳のオレがいいっていうから………うれしくなって……………もっと言わせたくて……その、調子のりました…………」
頭をたれて懺悔するオレをしばらく眺め下ろしてから、勇人はフンと笑い飛ばした。
「こっちにも来てたぜ」
お前が、と目線だけで伝えられて一瞬何の話かわからなくなる。勇人は言葉少なだから時々何の話をしているのかよく分からないことがある。
「…………あ!」
「思い出したかよ」
勇人に指摘されて、突然10年前の記憶が蘇った。蘇ったというか、いまその記憶が植え付けられたという感じが近い。どうしてあんなこと忘れて何の影響も受けず生きてこられたのか分からない。タイムリープに関して明るくはないが、まさに今記憶が出来たというのが正しい表現だった。
「思い出した……」
勇人に無体をはたらいたオレとは違って、勇人は17歳のオレに良くしてくれた。パニックになってたオレを落ち着けてくれて、それから……………、いや、やっぱりちょっとこれは嫉妬する。
何か言うことは?という無言の圧力を勇人の目から感じて、オレは目を逸らしながら頭を下げた。
「………すみませんでした」
「………それだけか?」
どうもまだ許してくれないらしい。頭をフル回転させて考えるけれど、何を言っても間違っている気がした。……ええい、ままよ。
「………抱かせてください」
「……………。」
沈黙が身体中に刺さって痛かった。まちがってることは分かってるから、怒るなり飽きれるなりなんなり、なんとか言って欲しい。今更この関係を解消されるとは思っていないけれど、お預けの1日や2日は覚悟した方がいいかもしれない。いやだな……いますぐオレの勇人を抱きしめて愛してるって叫びたい気分なのに。
「……んぶっ!」
頭を垂れて躾られた飼い犬のように勇人の出方を待っていたら、唐突に顔にシャツをぶつけられた。びっくりして顔を上げると、17歳のオレには脱がすことの出来なかった勇人の裸の上半身が目に飛び込んできた。ああ、やっぱりきれいだ。今も昔も。
「上等じゃねぇか」
おら、来いよ。勇人の手が肩にかかって背に回される。18歳の勇人は頑ななまでにオレに手を回さなかった。その手が、オレの背に待っている。仰向けに転んだ勇人が、引き倒したオレを見上げた。オレの影の中にいる勇人はニヤニヤ楽しそうに笑っていた。

―――愛してる!!!
今度こそ大好きな勇人の耳元で喚いてやった。