保健室の秘密

圭勇 18禁
設定の捏造が大変に激しい。

 

 ぬーっと奥まで指が埋まる。緩くはないけど、どうしょうもないほど固くもない。異物を噛まされた括約筋がそれを追い出したものか咥えこんだものか迷ってひくついた。勇人は歯を噛み締めて腕で顔を隠している。痙攣したように不規則に短く息を吸い込む音。
「なんか、無理矢理してるみたいなんだけど」
 これは合意の上のセックスだ。
 確かにちょっと強引に連れ込んだのは否めないが、勇人はセックスが好きだから大体和姦になる。それでも、まだ理性の残ってるうちからアナルで気持ちよくなることに関しては抵抗があるようだった。ちゃんとキスして、服脱がせ合って、その気にさせてからとは反応が違う。そう言えばライブ中のドリアピはノリノリでやるけど、ドリアピだけの練習をさせたときは全然集中できていなかったことを思い出した。勇人は意外と繊細にできている。作曲中に邪魔すると怒るしな。
 前立腺を押しつぶしながら奥まで入れた指を抜き出す。それを何度か繰り返しながら、シャツの裾から見える腹筋に力が入るのを目で楽しんでいたら、勇人の片目が腕の下からこっちを見つめていることに気づいた。
「どうした?」
 困ったように眉間にシワが寄った。何か言おうとしているのか、口がぱくぱく動いて、やがて小さな声で「いくから、やめろ」とだけ言った。無視して指1本がずっぽりハマった穴にもう1本指を押し込む。勇人はぎゅう、と目を瞑ってオレに抱えあげられた片足を震わせた。
 保健室の鍵を貰ったのは、たまたま四月に保健委員を押し付けられたからだ。
 1年の時、不良から見た目が派手だと因縁をつけられた。オレはオレに似合うこの髪型を変える気なんて無かったし、そんな謂れも無かったから無視し続けていた。そしたらそいつらはそれを気に入ったらしく暫くは普通の同級生のように仲良くなった。2年の終わり頃、子役だった過去がそいつらにバレて負け犬扱いされた。尻尾巻いて逃げ出してやんの。そう笑われて我慢ならなかった。思わず殴ってしまったのを皮切りに、3年になるまでずっと怪我の絶えない毎日が続いた。そういった事情からほぼ毎日保健室に入り浸っていたので、ここはオレの庭みたいなものだ。さしずめ保健室の王子様ってところかな。保健委員を押し付けられたのも単純にそういう事情を皆が知っていたからで、保健室のカギを貰ったのも養護教諭がオレの頑固さを知っていたからだ。
 そんなに生徒数の多い学校じゃないから、同級生でオレが保健室の鍵を持ってることを知らないやつは春先に転校してきた勇人くらいのものだろう。バスケ部のやつらに大量にエアサロンパスを失敬してやったこともあるし、カノジョを連れ込みたいからというやつに鍵を貸してやったこともある。養護教諭はいつも職員室にいて、必要があれば呼ぶように言われている。思春期の男子高校生が色々あることを認めていて自由にさせてくれているいい先生だ。酒やタバコの気配があればすぐに問い詰めにやってくる真面目さも好ましい。
 などという信頼関係を、音楽室の場所すら知らなかった頃の勇人が知るはずもない。どうやって計算しているのか知らないが、卒業単位を落とさない程度にしか授業にも出ないからあまり学校に馴染んでもいない。KUROFUNEになってから聞いたところによると、学校に来てない間はライブハウスに行っていたのだそうだ。らしいっちゃらしいが、案の定目をつけてきた不良を伸してからは尚のこと孤立して一匹狼のレッテルを貼られ浮いた存在になっていた。学校来ないから目をつけてくる不良ってどうなんだよって感じだけど、あいつらもあいつらでちょっと面白いんだよな。
 必死に声を抑えて音が出ないようにしている勇人には申し訳ないけれど、鞄が置いてあって二人していない、ということは多分バレてると思う。ライブの練習をしているのか、はたまたナニをしているのか、わざわざ保健室まで探りにくる奇特なやつもいないだろうし、俺がいないってことは保健室に入れないってことだから別件で近寄るやつもいない。ちょっとした救急道具なら職員室の先生が持っているから大丈夫だ。
 周りに人は絶対いないから声出してもいいよって教えてあげても良かったんだけど、周囲が気になって気持ちいいのに集中できてない勇人が可愛くて興奮するから黙っていた。家でするときみたいにノリノリで乗ってくるのも悪くは無いんだけどな。
 二本の指でずぽずぽ出し入れする。勇人は必死にイクのを我慢していて、自分のシャツの袖をちぎりそうなくらい噛み締めていた。涙で濡れた枕を破りそうなほど握りしめていた片手がオレの肩の布をつかみ、頭がふるふる小さく振られた。
「………見る、な」
 いくから、その姿を見ないでくれ。と、黒石勇人とは思えないか細い声がそう訴えた。……興奮した。本当にもう限界らしい。
「勇人、上乗れる?」
 指を抜いて問いかけるとあからさまにほっとした顔で勇人は顔に乗せていた腕を退かせて頷いた。大型のネコ科の動物を思い出させる動きでのそりと身を起こすと、勇人はオレを自分が寝ていた場所に押し倒し鼻頭を擦り寄せてきた。本当に野生動物みたいな男だ。勇人は枕とオレの首筋に顔をうずめて大きく息を吸いこんだ。息苦しくはないのだろうか。かぷり。甘噛みをされて、首を舌で舐められた。
 猫のように高くあげられたお尻に手を伸ばす。両手で尻臀を開いて開いた穴のフチを撫でた。くぐもった声が耳元で聞こえる。枕に伏せたことで声を我慢しなくて良くなったのと、たぶんオレの気配が近くなったから安心してるんだろう。身体の緊張が取れている。
 勇人に言ったことはないけど、ベッドの向こう側には都合よく薬品棚があって、よく磨かれたこのガラスはちょうどオレたちを写してくれる。優しく撫でればひくつく穴、そこに指が入り込み、勇人の足先がばたついて布団を蹴るのが見えた。気持ちよさそうだ。
 二本一気にまとめて入れても広がった穴は丁度よく締め付けてきて、腕に力を入れてグチュグチュと揺さぶる。揺さぶられるがままに腰を振る勇人の、枕に受け止められたくぐもった喘ぎ声が耳を犯しオレの頭の中をぐちゃぐちゃにした。
「〜〜〜〜ッ!ッ!ッ〜〜〜」
 イキそうになってたお尻はオレにいたぶられて呆気なく極めてしまったようだった。ぐう、と背中が丸まってガクンと落ちるのが鮮明にガラスに映し出された。それを何度か繰り返している間、オレはぎゅうぎゅう締め付けてくる勇人の中を揺さぶり続けた。
「っ、ぁ、はー……はー………」
 やがて力尽きた勇人が四つん這いからずるずると上半身を落としてぺったりオレの胸に引っ付いた。枕に埋めていた顔が眼前に見える。とろんと焦点を失った目。とろとろ涎を垂らす小さな口。時々こくんと息をのんでは目を細めた。とうとう動物になっちゃったみたいだ。
 指を抜くと、落とすことが出来なかったお尻がゆっくりと落ちてきて勇人はぺたんとうつ伏せで座り込んでしまった。ほっぺを擦り付けては鼻をひくつかせる。トンでしまって動物になっちゃった勇人は本当にかわいい。
 力の抜けた重い体を横に転がして上に乗った。不思議そうな顔がオレを見上げて無言で袖を引かれる。うんうん、すぐしてあげるからね。
 女の子と穴の位置が違うから、勇人の身体の柔らかさをもってしても抱き合いながら腰を振るのはわりと難しい。だから勇人が抱きつきたいと無言でアピールしてくるのを宥めて、両脚をまとめて抱え込んだ。とろんだ顔が期待に揺れる。ぱちぱちとまばたきを数回。先っぽが肉の輪を潜りゆっくりと穴の中を満たしていった。
「……ぁ、………っ、………ん………」
 きゅーっとなってぱくぱくする勇人から声にならない喘ぎ声が出る。マトモに思考が残ってるときの、どこがいいだの、こうしろだの、アンアン騒いでるのもえっちでいいけれど、動物になってしまって声が出なくなっちゃうのだってすごくかわいい。肉穴は無抵抗にひくひくとオレを締め付けてくる。そこを奥まで突き刺したり、引き抜いたりする。無反応のように見えるけど、奥を叩くたびに小さくまばたきをするのはかわいい。力の抜けた身体をぬこぬこ往復して優しく擦ってはかわいがる。激しいセックスも興奮するけど、こういうやさしいセックスも大好きだ。
 時刻は午後1時過ぎ。
 午後イチの授業はもう始まっているから、外から体育をしている生徒の声が聞こえる。よほど骨折でもしない限り保健室に飛び込んでくることはないだろうが、仮にこの時間に骨折でもしたら職員室へ行くだろう。だって保健室の鍵は授業中のはずのオレが持ってるんだから。
 野生の獣のように周りの気配に過敏になってた勇人はもうその鋭い感覚を失っていて、ただオレに揺さぶられるだけになっていた。たぷたぷ、袋いっぱいに詰め込んだ甘い水みたいに揺蕩って蕩けていく。
 ふいに脱力していた身体が小さく跳ねて、顎を引いた勇人の喉から小さな悲鳴が漏れた。
「…っん、ん、んー…………っ」
 薄く開いた瞳からころりと涙がこぼれ落ちる。きゅ、きゅ、と優しく締め付けられてオレは動きを止めた。
「だいじょうぶ?」
 かわいいイキ方をした勇人は茫然自失とオレを見つめていて、小さな口からあつい吐息を漏らしながらコクンとうなづいた。ああほんとかわいいなぁ。えっちなのもいいけど、かわいいのもめちゃくちゃいい。オレのものって感じがすごいする。
 奥まで入ってたのを、イったばっかりだろうからと気づかってゆっくり引き抜くとぷるぷる震えた勇人がコクコク頷いた。なにそれ。なに、動いていいよってこと?また中に押し込むと、きゅーっと目をつぶって堪える。かわいい。ほんとかわいい。気だるげな午後の空気がゆっくり流れる時間のなかに似つかわしいセックスだ。
 疲れてきたので抱え上げていた足を下ろしてベッドに手をついた。腰から下を押し上げられた勇人が近づいたオレにひっつこうと手を伸ばしてくる。濁りのないあかい目がじっとオレを見る。ガーネットのきらめき。何かを訴えかけているようで、その実なにも求めていないまっさらな視線。つぎはなにするんだ?そんな期待に満ちた顔でオレの動きを待っていた。
 とは言ってもやることは変わらない。その体位でまた性器の抜き差しをするだけだ。さっきより深くハメられるようになって、勇人の尻にオレの腰骨がめり込んだ。ぐぼ、ぐぼ、と濁った音が響く。勇人のたちあがったものからとろとろ水っぽいのもが零れだしていた。オレにひっつきたがっていた勇人は力が入らないのか何度も腕を落としてしまって、ぐずりながらベッドについたオレの手を引っ掻いてきた。どうしようかな。後ろからとかならもっと引っつけるんだけど、でも今は見るなと言われた勇人の痴態を眺めていたい気分なんだ。
 今なら怒られることは無いだろうと思って脱いだまま丸椅子の上に置いといた学ランを手に取った。勇人の顔に被せてやると、手を使ってもそもそそこから顔を出した。いらないって捨てられるかもしれないけど、と、ちょっとドキドキしながら勇人の反応を待っていると、大きく息を吸い込んだ勇人が目を細めてにこーっと笑った。うわ、いいんだ。それでいいんだ。眠ってしまいそうにふわふわ幸せそうな顔をしている勇人をパンと張ると、ふわふわの顔のままきゅーっと顔を顰めた。ぐぽ、と引き抜いて、また張る。勇人は顎を反らせて、もぐもぐとオレの学ランを口のなかでかわいがった。いいなぁ。あんな風に幸せそうに食まれる学ランにちょっと嫉妬する。
 その状態で暫く中を擦っていると、また勇人が小さく息を詰まらせ始めて頭を振った。イキそうになってるのかな。オレもかなりキているから、できれば一緒にイキたい。
「勇人、」
 声をかければ学ランを抱きしめたまま揺さぶられてる勇人がぱちぱちと瞬いてオレを見上げた。なんだ?声には出さないけど、何を言ってるのかは分かる。まるでかわいいペットみたい。
「イクの、ちょっと待って」
 勇人はそれを聞いて一瞬悲しそうな顔をしてから、ぎゆーっと顔を学ランに埋めてしまった。怒ったような、拗ねたような表情をして、身体を強ばらせる。ちゃんと我慢してくれるらしい。ずぽ、ずぽ。すぐ出せそうなくらい興奮していたけど、イキそうなのを我慢させたくてこっちも色々気を散らした。どうやって出そうかな。ゴムしてないけど中に出す雰囲気だよな。汗が張り付いてるな。外の体育の授業はサッカーがひと試合終わったみたいだ。肩に担いだ勇人の足がパタパタ動いて、ギュッと閉じてた目が悲しそうに開いた。もう、むりだ。そんな訴えが聞こえる。腰がズンと重くなった。
 長く息を吐いて準備を整える。両手で勇人の足を押しやって、ずず〜〜〜っと抜け出す際まで引き抜いた。勇人の目尻からぼろっと涙が零れる。背筋をビリビリ駆け抜けて頭を痺れさせる快感。ごつ、と一気に奥まで叩きつけて、それで勇人はもうだめになった。
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!」
 声も出せずにイってるところを引き抜く。あと何回かはいけそうだ。ごつ、とまた押し込んでまとわりついてくる中を感じる。学ランを握りしめるのがかわいいと思った。もう一回。声も出せず痙攣してる勇人を見ながら叩きつけて、自分がちょっと射精してることに気づいた。興奮でおかしくなってる。まだ擦りたくて、もう一度引き抜いて貫いた。すると勇人がもうダメだという風に手を伸ばしてオレを抱き寄せた。腰が引けなくなって、勇人の中にぎゅうぎゅう押し潰される。気持ちいい。出しているのが分からなくなるくらいの強烈な気持ちよさに喘いで、全部勇人の中に出し切った。
「っ、はー…、はー…、……、はー………」
 荒い息はオレだけのものだ。勇人は音もなく小さな呼吸を忙しなくしていて、大丈夫?と頬を撫でたら手のひらに顔をこすりつけてきた。まだ動物になったまんまみたいだ。
 中に出したのを掻き出さなきゃいけないけど、シーツを汚したくはない。
「勇人、抜くけど、零すなよ」
 そう言い含めて起き上がる。ゆっくり抜き始めると、強い力で締め付けられて残っていたザーメンが絞り出されてしまった。尻に力を入れたままひっくり返ってる勇人を置いてベッドから降りる。ウエットティッシュ、ウエットティッシュ。あったこれだ。
 振り向くとベッドの上でじっとこっちを見ている勇人と目が合った。不服そうに唇を尖らせている。かわいいなぁ、もう。ベッドに乗り上げてギューってしているお尻に引き抜いたティッシュを押し付ける。
「はい出してー」
 赤ちゃんにするみたいな扱いに嫌そうな顔を浮かべていたけど、素直に押し付けたティッシュ越しに穴が開くのが分かった。腹筋に力を入れる度、ぎゅ、ぎゅ、と穴が開く。興奮してきてティッシュを少しずらして開閉してる穴を見たらちょうどドロリと奥から出したものが出てくるところだった。
「ぁぅ……」
「………、……」
 とぷ、とぷ、とティッシュに少しづつ吐き出される精液を見ながら、我慢できなくなって勇人をもう一度四つん這いにさせた。学ラン掴んだまま転がった勇人の中に二本まとめて突っ込む。
「〜っ!ンッ!ンッ!ンッ…!」
 乱暴に掻き回すとグチュグチュと音を立てるくらいには中に残ってる。こそげ落とすように指先でそれらをまとめて外に掻きだした。どろりとティッシュの上に泡立った精液が落ちる。もう一度。
「ぅ……、圭吾………」
 指を入れたら勇人が嫌そうな顔でこっちを振り返ってることに気づいた。
「ごめん、もうしないから」
 苦笑して今度はゆっくり中を調べてなるべく刺激しないように掻き出した。それでも勇人は気持ちよくなってしまうみたいで、たぶん全部出ただろうあとも3回くらい中を弄ってしまった。
 元に戻りつつあった勇人はオレの後始末と称した無体のせいでまたマタタビ嗅いだネコみたいにくったりとろとろになってしまっていて、俺の学ラン抱きしめたまま丸くなって寝てしまった。どうしよう、オレ次の授業落とすと卒業やれないって担当教員から言われてるんだけど。
 仕方ないから勇人に布団を被せてやり、自分はシャツの上に貸出用のジャージを引っ張り出して授業に戻った。木枯らし吹く寒空の季節にシャツ1枚は風邪をひきかねない。体調管理もアイドルとしての仕事の一環だ。
 教室に戻って「何でジャージなんだよ」と笑われるのに「運動しただけだ」と答えて席につく。最後の教科をのんびり聞いて、荷物をまとめて2つ隣の教室に行った。
「勇人、帰ってきた?」
「黒石くん?見てないけど……仕事じゃなかったんだ?」
 このクラスの委員長はよく周りを見てるからいつも勇人捜索にはお世話になる。1年のときはオレも同じクラスで不良に絡まれていた頃に色々心配してくれたイイヤツだ。
「そう、じゃあカバン貸してくれよ。いま保健室いると思うから、オレ持ってくわ。」
 なんで知ってんの、と不躾なクラスメイトが怪訝な顔をしたのにニッコリ笑って勇人の机まで行った。机の中に教科書が行儀よく並んでいるのを見て、意外と几帳面だよなと思いながらカバンを担ぐ。弁当しか入ってないんじゃないかと思うほど軽かった。
「黒石くん、具合悪いの?」
 心配そうな声にあー…と言葉を濁した。
「や、なんか昨日遅くまで曲作ってて眠いって言うから保健室に押し込んできただけ。大丈夫だと思うけど?」
 じゃあこのあと事務所行くから、と慌ただしく去ろうとしたら後ろから声を掛けられた。
「あ、あのね、黒石くん、すごく気が付くし優しいから、あんまり無理しないように言っといて。応援してるから。」
 やっぱり彼はよく周りを見てるなと思う。
「ああ、ありがとな。ちゃんと伝えとく。」
 そう言って二人分の荷物をかかえオレは保健室に走っていった。
「なんかさ、黒石って雰囲気あって怖いけど、風間ってなんか圧があって怖くない?」
「うん……、でも2人とも、いい人だと思うよ。」
「まあ、………そうなんだけどさ」
 保健室に行ったらびっくりするくらい健やかに勇人が眠りこけていた。死体のように微動だにせずオレの学ラン抱きしめたままの状態でスースー寝ている。聞いたわけじゃないが昨夜遅かったのはオレの口から出たでまかせというわけでも無かったのかもしれない。
「勇人、いつまで寝こけてんだよ。さっきチャイム鳴っただろ!」
「んあ゛……?」
 揺さぶるとすぐに目を覚ましてぱちぱち状況を整理するみたく瞬いた。のそりと起き上がって、くあ、と欠伸をする。もう普通に戻っているけれど、それでもやっぱり野生のネコみたいだった。シワだらけになって勇人のヨダレの跡が残った学ランを見てガックリする。すぐにクリーニングに出さないと。
 がりがり頭をかいてよく寝たと零すのに、そうだな……と力なく答える。ごしごし目をこする仕草は、腹立たしくもやっぱりかわいかった。
「授業、大丈夫だったか?」
「前の学校で殆ど卒業単位満たしてっから影響ねーよ」
「どういう計算してんだよそれ……」
 日本に来るとき親に強制的に進学校に放り込まれたらしい勇人は二年の半ばで高校卒業単位をほぼ取り終わっているそうだ。それで最後の一年は受験に専念するのがそういう高校のやり方らしいけど、その時勇人は最初の2年で東京に出て勝負を仕掛けることを思いついたらしい。どうせ高校卒業は許してくれないだろうから、ならさっさと卒業単位とって東京で勝負しかけて有名になる、という夢見る少年が夢に見そうな夢を本当に実行してしまっている。オレをアイドルに誘った時もそうだったけど、驚くほど行動力のある男だ。
 寝ぐせのついた頭を整えてやって鞄を渡す。
「教科書全部置いてきやがったな」
「いいだろ別に。授業受ける必要ないんだし」
「授業中教科書出すくらいしてやんねーと失礼だろ」
 どんな同情心だよと思ったけれど、勇人は意外とこういうところは細やかだ。この学校も勇人の人生の一部になっているのかな、とぼんやり思いながら保健室を出る。戸締りをしていたら後ろから声をかけられた。
「そーいやお前いっつも鍵もってんな」
 ぎくっ。とうとうバレたか?
「借りて来てるんだよ」
「なんつって?」
 追い打ちが鋭い。こういう時は変に誤魔化すより直球で逃げるほうが勇人には効く。E組の委員長曰く、彼は優しいから人の弱みにつけこんでこない。
「いいだろ、別に」
「………そうかよ」
 つーん、とつまんなそうにそっぽを向いたのに申し訳ないと思いつつもやっぱりかわいいなとも思う。
まあ、まだこれは秘密にしておいてもいいだろう。オレたちの関係を察してるであろうやつが何人かいるであろうことも、この保健室の秘密も。