ふたなりの話

 

「生理中だからセックスはダメ」を食らうこと数回、何となく周期を把握し始めたオレは新調した純白のシーツに恋人を押し倒しながら「いい?」とお伺いをたてていた。
「……いいけど、……おまえ気持ちわりぃな」
「心外だな」
 そりゃまあ、挿入するにしろしないにしろほぼ毎日何かしらの性的接触をしているオレ達が、その期間中は一切触れ合わないんだから勇人も勘づいているだろう。勇人はオレに触れてこないし、オレも勇人に手出しはしない。いつもよりムラムラしているらしい勇人はどこかしら手を出して欲しそうな顔をしているのは伝わってきていたけれど、でもやっぱり大切にしたい気持ちが強くて手を出さなかった。ユニットのパートナーだからってものあるし、大事な恋人って言うのもある。男とか女とか恋人とかパートナーとか、そんな言葉では表し尽くせないほど特別な存在だってオレが思っていること、勇人には伝ってるんだろうか。
「大事にしたいんだよ」
 オレがそう言うと勇人は首をすくめて見せたあと、可笑しそうに笑ってオレの首に腕を巻き付けてきた。勇人の匂いが濃くなる。オレに発情してる雌の濃い香りだ。頭の奥がぐらつく。じっとり、湿度をあげた部屋に勇人の腹に響く低音が喘いだ。

 
 

 珍しく週中の1日が丸ごとフリーになった。
 その日は学校の創立記念日で自由登校だ。当然、呼び出しや受験勉強のある数人を除いてほぼ全員が休む。オレと勇人も休むつもりだったし、学生である身分柄、基本的には平日の昼間はあまり仕事も入れてもらっていない。勇人はヤりまくるぞという気概を隠しもせず前日の夕飯後に家までやってきた。
「メシ食ったか?」
「食べたけど……何これ」
「圭吾んち泊まるっつったらばあちゃんが持ってけって」
 受け取ったタッパーには野菜たっぷりの美味しそうなキッシュがホールで詰まっていて、おやつにでもご飯にでもできそうだった。キッシュ。フランスはロレーヌ地方の家庭料理。こうやって勇人がうちに泊まりにくる度にちょくちょく持ってくる手土産は時が経つにつれてテレビで見る風間圭吾に相応しいものになっていった。勇人のおばあさまが孫のユニットの活躍を良く見て応援してくれている気配を感じてなんだか面映ゆい。勇人がそれに気づいているかどうかは分からないけれど、こんなふうに愛されている人を、オレだって大切にしたいと思う。そんなオレの気持ちを勇人だってもっと理解してくれたらいいのに。
 風呂、と短く催促されて沸かすから待って、と浴室へ行った。戻ってくると勇人はベッドの上で胡座をかいていて、オレが丁寧に詰めた綺麗な缶詰の中のコンドームとローションをベッドに散らかしていた。布団の上には楽譜も散らかっている。よくこの数分でそれだけ散らかせたもんだ。
「風呂いくまえに片付けろよ」
 ゴムのパッケージを指で揉んでいた勇人がキョトンと見上げてきて、無言のままゴムを缶詰に戻した。ちがう、そっちじゃない。喉のところまで出かけて飲み込む。いや別に、したくないなら、楽譜が触りたいなら、そっちでいいけどさ。と、誰ともなく腹の中で言い訳した。
 そのあと風呂からあがった勇人はヤるぞとのしかかってきたから、結局オレは楽譜片付けろよと苦言を呈すハメになったし、勇人はめんどくさそうに布団に散らばった楽譜をまとめて床に放り投げた。ああもう。それ大切なやつなんだろ。まだ見ぬアレンジが中途半端にメモ書きされた紙に手を伸ばしたオレは、後ろから勇人に引き摺り倒されてベッド逆戻りした。
「んっ……」
 肉厚な唇が押し付けられて、口を開く。こちらから差し入れるまでもなく性急に舌を捩じ込まれるのに慌てて手を突っ張って押し退けた。
「ん……勇人、オレ風呂、入ってないから……」
「いーだろ、別に。入ってない方が興奮する。」
 言うや否やじゅるりと肉食動物のように舌舐めずりをした勇人がまた覆いかぶさってきた。一瞬流されてもいいかなという気になったけれど、今夜は長いんだ。明日もまる1日一緒にいて好きなだけできることを考えると、やっぱりこのタイミングでお湯を浴びておきたかった。
「……オレが嫌なんだよ。ちょっと待ってろって、すぐ出てくるから。」
 そう言ってもう一度押し退ける。もっと抵抗されるかと思ったけど、勇人は意外とあっさりと引き下がった。ポツンとベッドの上に取り残されたまま何も言わずに座り込んでる勇人が少し不気味な気もしたけれど、オレは気にしないようにして急いでバスルームへと向かった。

 
 

「んっ、んっ、あーーーっ、あっ、ぅん〜〜〜っ」
 風呂から出てきたオレが見たのはひとりでベッドに突っ伏して二穴弄ってる勇人だった。
 利き手を前から回して、前に人差し指を、後ろに中指を埋めてにちにちと弄ってる。ローションを使った形跡はなくて、正真正銘勇人の愛液だけでアナル遊びをしているようだった。時々前のぬめりを伸ばしてお尻の方に持っていきながら抜き差ししている。片方の手は枕を抱きしめていて、ゆさゆさと身体を揺すりながら必死になってオナニーしていた。
「勇人……」
「あ、あ、あぅう……ふ、うっ……」
 にゅこにゅこ指が乱暴に小さな穴を掻き回す。オレが傷つけないように丁寧に触れた穴は大きな動きに慣れてなくて、開ききった皮膚が赤く伸びてひきつれていた。
「勇人!」
 怒りに任せて中で遊んでいた手を引っこ抜いた。どろ、と濁った体液が溢れて玉の方へ零れる。いつもぴっちり閉じたワレメが濡れそぼって赤い媚肉を剥き出しにされている。頭のなかがぐわっと煮立った。
 忙しなく息を吐きながら四つん這いになった勇人が、オレを振り返った。
「おせーよ」
 ダマになった白い愛液がとろりと亀裂からこぼれ玉の間を伝ってどろりとシーツに落ちた。眉間にシワを寄せたオレを見て勇人は顔を顰めると、「嫌ならそこで見てろ」と吐き捨てまた小さな穴に乱暴に指を押し込んだ。お尻じゃない。女の子の、薄い皮膚が赤く擦れた繊細そうな場所だ。
「っ!……ぁ、は、……っう……!」
 そんな乱暴に動かしたら痛いはずだ。見た目にも無理をしているようにしか見えなくて、痛々しい。勇人の喘ぎ声にだって時折苦痛の色が混ざる。それでもぐちゃぐちゃと掻き混ぜる手は止まらなくて、癇癪おこした子供みたいにむちゃくちゃにそこを弄って体をぐずらせていた。
「……勇人」
 ふつふつと腹の中が煮立った。手首を掴んで突き刺さった指をもう一度引っこ抜く。舌打ちした勇人が「ある気あんのか無いのかハッキリしろ」と言い捨てた。
「あるさ」
 乱暴されてびしょびしよになった勇人の女の子のところを手のひらで撫でた。勇人の小さな尻がピクンと跳ねてゆらゆらと誘う。ゆっくり、もったいつけながら中指を這わせてから、一番痛くない場所でつぷりと中へ埋めた。狭い中はあったかく潤っていてひくひくと震えながらオレを歓迎する。ゆっくり、痛がらせないように、丁寧に奥に進んでいくと指先がむにゅりと肉に埋まった。
「あっ……!」
 子宮だ。
 枕をつかむ勇人の手に力が篭って、四つん這いになった背筋が知らず緊張する。
 指先で子宮口をくすぐると狭い肉筒が蠢いて指をやわく愛撫した。じゅわりと潤いも多くなる。
「あっ!あっ?!あっ!」
「もう子宮が降りてきてる」
 少し抜いてからズンと突き刺すと、勇人の顎が上がって気持ちよさそうに唸った。ピストン運動を繰り返すと、同じようにチンコで突かれることを覚えているアナルがぱくぱくと物欲しそうに反応した。
「あ゛っ、あ゛ーっ……ひぅっ」
 指先を子宮口に突き入れては抜きだす度、勇人の中はビクビクと戦慄き、食んだオレの指に本気汁が絡まってぽたぽた落ちていく。感じ入って喘ぐ勇人は凄まじく興奮を煽ったし、極々普通に股間にキた。……けど、一人で気持ちよくなっている姿に置いてかれたような寂しさと怒りも覚えていた。胸に巣食うムカムカを吐き出すように深呼吸する。
「……オレも気持ちよくしてくれよ」
 指を引き抜くと狭い膣から粘度の高い体液が溢れてシーツを濡らし、指に糸を引く。拭いがてらスウェットを引きずり下ろして勃起したものを引っ張り出した。濡れそぼった女の子の穴に先端をくっつける。勇人が力のない瞳でオレを振り返った。
「入れていい?」
 先っぽが薄い肉に守られた場所にめりこもうとする。勇人は訝しげな顔をすると小さく首を振った。
「入らねぇ」
「そうかな」
「っ…!」
 指でくぱりと穴を広げる。小さな場所だ。当然、男性器なんてモノは入らないように見える。突き刺すように押し付けたけどズルリと滑って唇のような小さな肉に幹を挟まれた。興奮が理性を焼き焦がしていく。
「っ……!たっ……」
「ごめん」
 謝ったけど、痛みを訴える勇人を無視してオレはまた先っぽを小さな口に押し付けた。ぴしゃ、と繊細な場所を守るためか愛液が飛び散って、興奮で息が詰まる。
「け、……圭吾……っ」
「……、……」
 勇人が慌ててオレを止めようと手を伸ばしてきたけれど、それを振り払って、逃げようとした腰を引っ掴んだ。勇人の身体がこわばり、入れようとしている小さな穴が余計に狭まってオレを拒否した気がした。ムッとする。
「なか、入れてくれよ」
「……っ……」
 ぎちぎちと先っぽがめり込むけど、とても入りそうにない。裂けそうになった薄い肉が赤くなって今にも血を流しそうだった。どうしても勇人は逃げようとするので、恐怖にキュウっと閉じきっているアナルに指を押し込む。
「うあっ!あっ〜~〜やめ、圭吾っ!」
 ずぶずぶ一気に根元まで押し込むとシーツを這っていた上半身が快楽にガクンと沈んだ。ふっと笑いが込み上げる。無理矢理処女を犯されそうになってるのにお尻が気持ちよくて逃げられない、なんて。清楚だとか淫乱だとかおよそ勇人を表現するのに適さない単語が頭の中で渦巻いた。その間もアナルでオレの指をきゅんきゅん噛み締めては、快感にその背を震わせている。
「あ゛っ!あ゛う゛ぅ゛〜~〜うん゛ッ!ンン゛ッ!〜〜〜ふ、う゛〜〜〜〜〜!」
 逃げようとしてるのか腰を振って快感を得ようとしているのかハッキリしない身体の捩り方をしながら勇人が喘ぐ。先っぽを小さな膣口に押し付けながら自分で陰茎を扱いた。片方の手は勇人のアナルをズポズポ弄る。もう腰を掴んでなくても、アナルの刺激だけで逃げる力は残っていないようだった。
「……はっ、……っ、なか、出すよ」
「?!や、やめ」
「赤ちゃん、できちゃう?」
「〜〜〜っ!!!」
 ザッと血の気の引いた横顔に、何故かその時は何の罪悪感もわかなかった。少し笑い出したいような気分にすらなりながら、アナルに押し込んだ指で肉壁の向こうの子宮を揉みながら、小さな膣口に向かって射精した。勇人が感じ入りながらバタバタ逃げようとする。
「あ゛ーーーーッ!あ゛っ!いやだ!やっ!圭吾っ!ひっ…!あっ……あっ、あっつ……」
 見下ろした勇人の背中に突然ブツブツと鳥肌が立つのが見えた。ぞく、と残虐な興奮が這い上がった。アナルに押し込んだ指は勇人が感じていることを教えてくれる。チンコしごいて吐き出せるだけ吐き出した。
「やっ、やめ……っ、はなせっ……!あ゛っ!」
 小さな肉のあわいからオレの出したものがぽたぽた零れる。吐き出そうとしているのか、二つ並んだ穴がぱくぱくと震えた。オレは零れてきた精液を拭うと亀頭1ミリも埋まらなかった小さな穴に指を押し込んだ。勇人の目が驚愕に見開き、じたばたと暴れ出した。
「やっ!やめろ!圭吾っ!やぅ、あっ、や゛あ゛あ゛ーーーーッ!」
 イッてるみたいに痙攣する小さな膣内をグリグリ精液擦りつけながら奥へ進む。降りきった子宮口が待っていたかのようにオレの指先を銜えた。
「あ゛ーーーーーッ!!!」
「赤ちゃん、できちゃうな」
 余りに悲痛な叫び声があまりに非現実的で笑ってしまった。オレの指を引っこ抜こうとしてくる腕には全く力が入っておらず、ガタガタ震えていた。
「うあ゛っ、あ゛っ、れき、れきるっ、あかちゃ、れきる、からっ、ぬけぇ!」
「なんで?オレじゃだめなのか?」
 震える子宮口をくちゅくちゅ指先で弄びながら尋ねると、殆ど泣いてしゃっくり上げてる勇人が息も絶え絶えに訴えてきた。
「くろふね……っ」
「…………」
「まだ、っ……お前とやりてぇ」
「…………」
 ぐす、と鼻をすすった勇人の力の入らない手がオレを叩いた。ナカはまだビクビク痙攣して勇人が感じきってることを教えてくれる。
 ざあ、と血の気が引いた。
「い゛ッ!ああ゛っ!!!」
 恐怖と混乱で乱暴に指を引き抜いてしまった。興奮とはまた別種の動悸に頭が眩む。オレの引き抜きた指はオレの精液と勇人の愛液が混ざっていて、きっと本来ならめちゃくちゃ興奮したはずだろうけど、今のオレにはただ背筋を凍らす理由にしかならなかった。
「あ、……」
 指を引っこ抜かれた勇人は何とか身体を起こそうとして失敗していた。一度ナカでイった身体は自由にならないみたいだ。止まっていた頭の中が急激に動き出す。
「勇人……!」
 身体を起こすのに手を貸そうとしたら、触れた瞬間勇人はびくんと身体を震わせて呻いた。ああ、触っちゃダメなヤツだ。ひんやりと指先が冷えていき震えが走った。でも、だからって、今何もしないで見ているなんで出来ない。しちゃいけない。
 触られたら壊れちゃう状態になってる勇人に無理矢理触れて抱き抱えた。背中に爪が立てられる。
「あ゛っ!ぁ゛うぐ……っ」
 がたがた震える両腕がそれでもオレに縋りついてきて泣きそうになった。とろとろ精液と愛液を洩らしている。早く出さなきゃ。自分の精液濡れの手を見て、それからティッシュを探してから、そんなんじゃダメだと思った。
「ふ、風呂!風呂行こう!勇人、掴まってろよ!」
「うあ゛っ!」
 感じ過ぎておかしくなってる勇人を首に巻き付かせて、膝裏に腕を突っ込む。割と簡単に出来てしまったお姫様抱っこにほんの少しばかり喜んだけれど、今はそんなことを楽しんでる場合じゃない。小さく痙攣している身体を担いでスマートさの欠片もなくバスルームに駆け込んだ。さっきお湯を抜いて掃除したばかりの浴槽にぜーぜー言ってる勇人を横たえて、給湯ボタンを押す。慌てて脱衣所に戻って寒くないように暖房をつけてからまた急いで浴室に戻ってシャワーを捻った。
「なか、洗おう」
 勇人はまだ焦点がうまく合わない目で苦しそうにオレを見上げてきた。あったかいお湯がうっすらと溜まって来た中に呆然と座り込んでいる勇人にシャワーを当てるとびくんと跳ねて甘く鳴いた。
「あ゛っ……!」
「あっ!ご、ごめん……刺激が強かったな……!」
 こっちもビックリしてシャワーヘッドを放り出す。目に涙を浮かべた勇人が何事か言おうとしたものか、小さく呻いたけど、それだけだった。
 床に放り出されたシャワーヘッドからもわもわ湯気がたって視界が霞む。スウェットがびしょ濡れになるのなんてどうだって良かった。勇人の放り出した脚の踝まで溜まったお湯に手を伸ばして、勇人に掛けてあげる。
「ごめん、ガマンして」
 多分いま触ったらしんどいやつだって分かってたけど、触らないわけにはいかなかった。
 股の間に手を差し込んで、また慎ましく閉じてしまった女性器を指先で開ける。
「っ……」
 眉間に皺を寄せて潤んだ目でこっちを見てくる勇人に、浴槽の外からキスをした。
「ごめん、洗うから」
 今度は精液じゃなくて暖かいお湯を押し込めるように中に指を入れた。
「あっ……」
 また小刻みに震えながら勇人の手がオレの袖を掴んだ。グレーの生地が重く色づく。イキすぎておかしくなってる勇人に「ごめん」と「ガマンして」を繰り返しながら、くちゅくちゅ奥を探っていった。

 

 勇人と沢山セックスをして、勇人のセックスが日常になっていた。不思議な話だけど、オレは勇人に対して「男らしくてかっこいい」と憧れる気持ちと、「女の子みたいに大事に愛したい」って思う気持ちとの両方を持っていたように思う。
 ユニットになってお互いのことを知って、勇人の強いところ優しいところ、かわいいところかっこいいところ、いろんな面を知った。その全部が矛盾なくすべて黒石勇人その人の中にあるものだった。オレは時にヒーローに憧れるように勇人を好きだと思ったし、時にかわいいお姫様を守ってあげたいように勇人を好きだった。幼い子供のような自由な行動と、何ものにも揺らがない強い大人の余裕が同居していて、こんな風に自由に強く自分自身であり続ける生き方に憧れがないわけじゃない。オレはそうはなれなかった。オレにはできなかった生き様だ。それを未だ抱えて生きている勇人のことをかっこいいと思うし、同時にその穢れなさを守りたいとも思った。そう思っていたはずだったんだ。
 黒石勇人は黒石勇人で、他のどんな常識も通用しないんだと思っていた。女の子みたいに抱いたって勇人は勇人だったし、女性器がくっついてるって知ったあとだって勇人は勇人だった。
 だから受精したら妊娠するなんて常識が当てはまるなんて思わなかったんだ。
バカみたいだ。当たり前なのに、勇人の言葉を信じていなかったわけじゃないのに、まるで気持ちよくなる器官のひとつみたいにしか思っていなかった。大切にしたいなんてよく言えたもんだ。後悔だけが次々と泡になって浮き上がって弾ける。
 オレは普通に女の子が好きで、勇人に子宮が気持ちいいって言われて興奮した。赤ちゃんできちゃうって言われると興奮するから、何度も言わせたし、そういうおまじないみたいになっていた。
男性性の強い勇人は、女の子のところで気持ちよくなることを最初嫌がっていた。自分じゃなくなりそうだ、という拒否感を、異常な身体的特徴を、それでもオレに教えてくれた。
 勇人は強い。
 強いからオレは時々忘れてしまう。抱き合ってしばらくの間身体のことをオレに教えてくれなかった訳を。アッサリ教えてくれたような顔をしていたけれど、決してそんなことは無かったんだろう。簡単に女性器の快楽を受け入れたように見えたけれど、それだって実際のところはどうなのかオレには分からない。もっと考えれば気付きそうなこと、もっと勇人の言葉をちゃんと受け止めていれば分かっていたはずのこと、オレは全然大切になんてしていなかった。

 

「あっ、あっ、あ…っ」
 小さく震えてしがみついてくる壊れそうな身体を抱きしめて溜まってきたお湯で中を洗うように掻き混ぜる。その都度繊細になった肌は粟立って快楽を訴えてきたし、オレは何度も力を無くして落ちる手を受け止めて背に回させた。
 精液を塗り込めた子宮口までまた入り込んで、今度は優しくぐりぐり中をこそげ落とした。
「〜〜〜〜〜〜っ」
 力の抜けていた勇人の腕が突如力んで湯の中で勇人の身体が浮く。少ない体力を振り絞ってまたイった身体を優しく抱きしめて、でもオレの指を揉みくちゃにしている中を洗うことはやめなかった。
「っ!っっ!〜〜〜っ!」
 中イキしてる場所を直接弄られて勇人はイクのを止められないみたいだ。誘い込もうと蠢く媚肉に抗いながら外へと洗った湯を流し出す。強い快感でへとへととろとろになったのは可哀想でありながらどこかかわいい。と、またぼんやり興奮し始めた自分を律しながら「大丈夫?」と聞く。涙に濡れた瞳がぼんやりオレを見返し、ゆるく首が振られた。
「大丈夫じゃない?」
「っ、……っ、ない……」
「壊れちゃう?」
 ひくん、ひくんと腰を湯の中で震わせながら勇人はコクンと頷いた。あ、あんま頭が働いてないオウム返し状態だ。
「こわれる」
 湯の中でパクリと口を開かせた膣穴に奥まで湯を押し込むようにすると、またびくんと跳ねて「こわれる」と繰り返した。
「っ、け、ごっ、こわれ、る!こわれる……ぅ」
「うん……ごめん、大丈夫だから」
 全然大丈夫じゃないことをしでかしたオレは、勇人を安心させるというよりも自分に言い聞かすように大丈夫を繰り返した。大丈夫。もう大丈夫。ちゃんと見えてる。落ち着け、きっと大丈夫だ。
 震えて怖がる勇人が壊れちゃわないよう、オレはしっかり抱きとめながら、祈るように勇人の中を洗い続けた。

 
 

 そのあと事切れるように気を失った勇人を暫く湯の中で遊ばせてから、いっとう大きいバスタオルの上に運んだ。ぐるぐるの簀巻きにしたのを抱えあげるのは難儀したけど何とかまた寝室まで戻ってきた頃に、勇人ほぼんやり目を覚ました。
「勇人」
 思わず震えてしまった声に勇人は顔をしかめると腕を動かそうとして自分が簀巻きにされていることに気づいた。
「なんだこれ」
「あっ、悪い」
 プレゼントの包装紙を開けるような気分になりながら、バスタオルの包みをひらくと勇人の裸体が出てきた。どこも怪我してなんていない。オレが傷ものにしようとしたきれいな体だ。
「……ごめん」
 突然謝ったオレに勇人は一瞥をくれると「寒い」と言ってオレを巻き込んで布団の中に潜った。
「もうしねぇのか」
 真っ暗な布団の中で勇人の声だけが聞こえる。勇人の体温を感じる。湿った吐息の空気。
「……怖くないのか?」
「怖い?俺が?お前を怖いって?」
 鼻で笑う気配。そんなこと言ったって、お前泣いてただろ。まだオレとユニットしたいって、泣いたじゃないか。
 勇人はオレを枕側に追い出して、自分は布団を被ったままオレの着替えたてのパジャマを引きずり下ろしてきた。陰毛に鼻先を押し込んで性器の根元に甘く噛み付く。ちらりと上目遣い。笑うように細められる。オレはどんな顔をしていいか分からなかった。慈しみたい。大切にしたい。おばあさまに、ファンに愛されている勇人そのままを守りたい。
 勇人の温かい口内に食まれた。じんわりと興奮が頭の中と胸に広がる。ちゅぱ、ぢゅる。あんまり体力の残ってないらしい勇人はまだ柔らかい性器相手にいつもより上手く口を使えないらしく、溢れる唾液を一生懸命舐めていてかわいかった。ゆっくり育てられ反り返ったチンコの先っぽに、勇人がペットを褒めるみたいに鼻頭をくっつけて満足げに笑う。おもちゃで遊ぶ子どものように人のチンコを好き勝手するところは好きだった。勇人は楽しそうにセックスをする。ライブも、歌も。勇人はいつも楽しげだ。
 完全に勃起したものをゆっくり先っぽから口内に迎え入れた勇人の、喉の奥。亀頭が大事な声を震わせる場所に辿り着くと、残虐な興奮に支配されそうになる。コクリ、と溢れた涎を飲み込むたびに先っぽが狭まった喉の奥に締め付けられる。柔らかい唇が茎を締め付けながらチンコを扱き、また喉の奥でコツンと先っぽを押し潰された。ぶる、と射精の予感が腰から這い上がってくる。口内で柔らかく熱い舌にしゃぶられて、尿道口が開くのが分かった。
「勇人……出る」
 チラリとこっちを見上げた勇人が喉の奥と唇でぎゅっうっと締め付けてきた。駆け上がる熱。ぐら、と目眩がして勇人の頭を押さえつけたくなった。いつもなら押さえつけてただろう。出そうになる手を必死でシーツ掴んで堪えていたら勇人の手がオレの手を上から包んだ。深く銜えこんだ勇人の喉がオレの精液を飲み込もうと嚥下動作をとる。
「う……っ、はぁ、あ、……」
 精液を吐き出すたびに喉に締めつけられて長くイかされた。どぷどぷ吐き出される精液を飲み込みきれなかった唇の端から、勇人の唾液と混ざったものがこぼれ落ちる。射精が終わった頃、勇人は力を無くしつつあるチンコをぺろぺろ舐めてキレイにしてくれた。飲み込みきれなくて垂れていった玉の真ん中を舌が擽っていく。シーツに落ちたのも、丁寧に口で拭ってくれた。
 キレイにするのが終わって着衣を整えると勇人が隣に転がって掛け布団の隙間を開けてくれた。そこに潜り込むと裸の腕が巻きついてくる。服に潜り込んだてのひらが、背骨を撫ぜていった。
「あったけぇ」
 くっついてきた勇人が、頭を俺の首筋に押し込みながらそんなことを言う。服着る?と聞いたらめんどくさいと返ってきた。
 なるべく寒くないように布団の隙間を無くして、ぎゅうっと抱きしめた。滑らかな肌。女の子みたいな柔らかさはない、でもしなやかな筋肉がついたキレイな体。
「勇人……」
「いい。今は気にすんな」
 涙声のオレの唇を塞ぐと、勇人はまたそのまま眠り込んでしまった。吐息が唇に触れる。いつもならたっぷりの幸福に包まれているはずなのに、オレの心はじくじくと膿んで滲む。妊娠検査薬ってどうやって使うのかな。今すぐスマホをいじって検索したい気持ちになりながら、それでもオレは大人しく勇人の寝息を聞いて心を落ち着けていた。

 
 

 翌日昼過ぎまで起きてこなかった勇人を思う存分寝かせておいて、完璧に変装して妊娠検査薬を買いに行った。そして今、付属の説明書を読みながらカフェオレをすすっているが、難しくて目が滑る。何となく分かったのは、すぐに使っても何の効果もないから、次の生理が来るまで待たなきゃいけないらしいってことだ。
「………圭吾、メシ」
 寝室に置いてあったオレのカーディガンを羽織っただけの勇人が目を擦りながら起きてきた。
「パスタ茹でて置いてあるから、服くらい着て来い」
「んー……」
 人の話を聞いてるとは思えない態度で椅子に座った勇人は、机の上に広がってる妊娠検査薬の説明書を認めてぱちぱちと瞬きした。
「お前、きもちわりぃな」
「なんだと?!」
 パスタソースを作るために取り出したボウルがガツンと音を立てた。

 
 
 
 

 それから一週間後。
 楽屋で出番待ちをしていると勇人が後ろからぺたりと抱き着いてきた。動物みたいにすんすん鼻頭を押し付けてきて、それから甘い香りがむわっと立ち込める。
「勇人」
 振り返った顔は眠そうと暇そうを足したような表情をしていて、力ない下唇がぽってり開いている。
「いい匂いする」
 くん、と匂いを嗅ぐ仕草をすれば、勇人は瞼を落として頷いた。
 あれからセックスをしていない。何となくオレも避けていたし、避けるオレをいつもなら押し倒してくる勇人も大人しかった。仕事も忙しかったのも言い訳のひとつだったかもしれない。ここ1週間ちょっと、オレたちはただのユニットでパートナー以外のなにものでもなかった。
 久しぶりの近さに目眩がする。キスをしてお互い粘ついた唾液を交換した。勇人を鏡台に座らせると、自分から靴を脱いで足を椅子にのせる。カチャカチャ音を立ててベルトを外すと、少しだけボトムを脱いでオレに股間を見せてくれた。紐が出てる。
「何これ」
「タンポン。生理中に中に入れるやつ。」
「へぇ……引っ張ってもいい?」
「机、汚すなよ。」
 ちいさな裂け目から赤い塊が出てきて慌ててティッシュで受け止めた。勇人が更にティッシュでそれらを包む。
「カバン」
 指されて拾い上げた中から勇人はスティック状の何かを取り出すと、するすると小さな穴の中に装着してしまった。靴下の裏で腹を押されて少し後ずさる。着衣を整えた勇人が「ライブあるときはこっち」と言った。ゴミを転がっていたコンビニのビニールに突っ込むと楽屋を出ていこうとしたので「何処に行くんだ」と引き止めた。
「便所。いま清掃の時間だから捨てれる」
 素っ気なく答えた勇人はオレの返事も待たずドアの向こうへ消えた。清掃の時間を覚えているのか。気まぐれで自由な勇人。何を考えてるのか分からなくて自分勝手な男。清掃の時間を覚えて捨てに行くような不自由をしてるなんて知らなかった。考えれば、きっと分かったはずなのに。
 一人取り残された楽屋でオレは詰めていた息を吐いた。生理が来てる。だからたぶん買った妊娠検査薬は必要ない。オレが塗り込んだ精子は受精しなかった。妊娠してない。……まだ勇人はKUROFUNEでいられる。
「………はは………」
 震える手を組み合わせて額に押し付けた。安堵感で心臓が破裂しそうなほど波打っていた。部屋の時計が秒針を刻む。遠くに、定期ライブのルーキー達の歌声がした。出番はもう少し先だ。震える息を吐き出して、平静を保とうとした。
(KUROFUNEで、いたいんだって)
 ひとりで事務所に乗り込んだらしい勇人が、誰でもいいから隣に立たせるだけで良かった勇人が。
(勇人は、オレと、ユニットしたいんだって)
 唄えなくなるから止めろ、じゃなかった。オレと、まだユニットでいたいから、止めろ、だった。胸の奥に次から次へも湧きい出てくるこの感情を、言い表す術をオレは知らない。ただいっぱいに満たされた気持ちで、その日はステージに立った。隣にいる勇人と一緒に。

 
 
 
 

 それから生理の終わった数日後、勇人がおもむろにコンドームを被ったオレの性器を前の穴に押し付けてきた。
「え?!そっち?!」
「ゴムしてりゃ問題ねーだろ」
「いや入る?!入らないだろ?!」
「入れたかったんじゃねーのかよ……、……広げてきたから入んだろ」
「広げてきた?!」
 腰を揺らして先っぽがむにゅりと小さな肉の唇に挟まれる。あんなことがあったあとだと言うのにオレのチンコは普通に興奮して跳ねた。
「うーーー……いって……」
「……ほら、やめとけって、ほんとに裂けて病院行くはめになったらどうするんだ」
 チッと小さく舌打ちした勇人が退く。幾分かほっとしながら、今度はオレが勇人を腕の中に組み敷いて勃起同士を押し付けた。
「ていうか広げてきたって何?」
「色々、入れた。」
「ええ……そういうの一人でやるなよ……オレもやりたい。」
 きもちわりぃな、と顔を顰めた勇人が布団を蹴り上げてオレの腰に足を回した。浮いた尻の谷間にオレのチンコを擦りつけて、たぶん尻に入れろってことなんだと思う。
 誘われるまま解した場所にゆっくり挿入した。にちにち、注ぎ込んだローションが潰れた音を立てて溢れだし、勇人の腰の方へ伝っていく。
「んー……」
 気持ちよさそうな声が媚びるように、でも決してそんな意図は含まず発される。首に回されていた腕を外してシーツに押し付けた。不安そうな顔が見上げてくるなか、自分で拡張したとかいう女性器を指で押し広げた。そう言えば勇人が処女膜だと言った引っかかりはいつの間にか無くなってしまったように思う。それがオレのせいなのか、自分でいじってたせいなのか、はたまた激しいダンスで破れたのかは分からない。
「圭吾」
 呼ばれて顔を見た。勇人の顔は赤く染まっていて、局部と同じように濡れてキラキラしてる瞳がオレを責めるように瞬く。
「ごめん」
 手を離してまた勇人を抱きかかえると、勇人はすぐに腕を回してきた。あったかい。中に包まれたチンコも、首に回された腕も、首筋に当たる興奮した吐息も、すべて温かかった。
 どうかこの熱がこれから先ずっとオレの隣にありますように。
 ちいさな願いを込めながらオレは何度も勇人の中を突き上げた。

 
 
 
 
 
 
 

おわり